図書館戦争が現実のものにならないように願うしかない
- 作者: 有川浩
- 出版社/メーカー: メディアワークス
- 発売日: 2006/02
- メディア: 単行本
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実は手元に「図書館戦争」があります。が大学に入りたての頃、大学生協に平積みされていたのを面白そうだからと買ったんですね。当時はなかなか面白い設定だなぁと思っていたのですが、どうやら現実のものになりつつあるようです。こわいこわい。
司書の友人からすでに『図書館戦争』に突入してると聞く。
04年の児ポ法改正で図書館の蔵書も児ポ法に引っかかることに→国会図書館「禁書リストくれ」→法務省「自分で判断しろ」→国会図書館「写真集118点等を閲覧禁止に」→他の公立図書館「図書館の自由に関する宣言」で抵抗中←イマココ
— たられば (@tarareba722) 2013, 5月 31
Twitterの又聞きなので信ぴょう性のほどは疑問符がつきますが、仮にこれが本当だとすれば、すでに「図書館戦争」で「メディア良化法」が制定、施行されてしばらくした頃、武装する前の図書館の様相を呈しているようです。今の日本で図書館が武装するとはとうてい考えられませんが、それでも現実が荒唐無稽だったはずのストーリーをなぞりつつあることには驚きを隠しきれません。
現実世界の「メディア良化法」としてにわかに注目を集めているものは何なのかというと、いわゆる児童ポルノ法改正案です。一見聞こえが良さそうなところといい、規定が曖昧なところといい、なんかよくわからない謎の勢力がしきりに法律を通そうとしているところといい、共通点が多くあります。
多くの人が何度も語ってるけど、私も。今回の児童ポルノ法、一番洒落になってないのは、漫画がどうとか、そういう以前の問題で、「警察さえその気になれば、事実上、日本全国、例外なく、全国民を、誰であろうと、恣意的に逮捕できる法律」が作られるって事なんだよ。それだけは理解して欲しいの。
— 榊一郎 (@ichiro_sakaki) 2013, 5月 31
なので、一見聞こえはいいものの、このような危惧をする人が現れるのもいたしかたないわけです。仮にこれが成立したら、二次絵を消したい人に匿名で送りつける「テロ活動」が流行りそうですね…
ちなみにいまの児童ポルノ法はどうなっているのか
そもそも、条文がちゃんとしていればこういった批判は起きないと思うのです。というわけで、現在施行されている児童ポルノ法、正しくは「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」を見てみましょう。全文はこちらから見ることができます。
一応性的な暴力などから力の弱い児童を保護することを目的としている条文なのですが…
(心身に有害な影響を受けた児童の保護)
第十五条 関係行政機関は、児童買春の相手方となったこと、児童ポルノに描写されたこと等により心身に有害な影響を受けた児童に対し、相互に連携を図りつつ、その心身の状況、その置かれている環境等に応じ、当該児童がその受けた影響から身体的及び心理的に回復し、個人の尊厳を保って成長することができるよう、相談、指導、一時保護、施設への入所その他の必要な保護のための措置を適切に講ずるものとする。
2 関係行政機関は、前項の措置を講ずる場合において、同項の児童の保護のため必要があると認めるときは、その保護者に対し、相談、指導その他の措置を講ずるものとする。
(心身に有害な影響を受けた児童の保護のための体制の整備)
第十六条 国及び地方公共団体は、児童買春の相手方となったこと、児童ポルノに描写されたこと等により心身に有害な影響を受けた児童について専門的知識に基づく保護を適切に行うことができるよう、これらの児童の保護に関する調査研究の推進、これらの児童の保護を行う者の資質の向上、これらの児童が緊急に保護を必要とする場合における関係機関の連携協力体制の強化、これらの児童の保護を行う民間の団体との連携協力体制の整備等必要な体制の整備に努めるものとする。
というふうに、あくまで被害を被った児童の保護などに関する条文はこの2つだけで、しかも保護は「努力義務」であって「義務」ではないとなっています。要は「100Mbpsの高速インターネットを謳っておきながら実はその1%も速度が出ない、でもベストエフォートですから問題ありません(キリッちゃんと改善に向けて努力しています(何年かかるか知らないけれど)」みたいなもんです。現にちょっと調べても気軽に相談できるようなものは見つかりませんでした。もちろん、児童虐待に関する相談室やシェルターは整備されているので、そこでフォローすることは可能だと思います。ただ、専門知識を持って保護できるかは微妙ですし、児童相談所の職員によると施設利用者自体が増えている傾向にあるらしいのでやっぱり擁護するのは難しいところです。
では何ができるのか
答えのヒントは図書館戦争の文中に書かれています。
社会に蔓延する政治的無関心も手伝い、国民は同法についての予備知識をほとんど与えられずその成立を受け入れることとなった。
明らかになったメディア良化法の概要に世論で強烈な拒否感が沸き起こったものの、一度成立してしまった法律はたやすく覆らない。
つまり、
- もっと政治に目を向けて、声を上げていこう。今は誰でもささやかながら遠くの誰かに思いを届けることもできる
- 一度成立したら最後だと思え、成立したら表現の自由を守るためにまた数多の血が流れることになる
ということを肝に銘じておきましょう。表現の自由は幾多の先人たちの汗と涙と血でできています。